SSブログ

エンタメ業界の残業代と業界の課題 [独り言]

エンタメ業界の残業代と業界の課題



エイベックスが17年度に過去の残業代を計上して支払うという報道があった。




総額10億円で対象は1500名。一人当たり平均で約66万円相当だ。
残業代は現行法では、2年前までしか請求権がない。
それでもあの会社の業務体系で平均で1人当り約66万円というのはちょっと低い感じがするが・・・。
1時間2,000円としても333時間。月に60時間超え残業なんて当たり前の業界で、5カ月分程度はねえ・・。
払う対応に賞賛もあるようだが、やっていることは普通にやるべき事なので、賞賛には当たらない。


電通の無制限とも言える残業で亡くなった新卒者の自殺の影響もあったのだろう、
上場企業として雇用環境を遵守するのは業界の特殊事情が関係ない時代となった。
もはや特殊業界と言われ続けて来たエンタメ業界と言っても例外扱いしてもらえないだろう。


エイベックスの松浦社長は、エンタメ業界で働く人間は、仕事とプライベートの境なんて
ないんだ・・というような趣旨を発言し、炎上してしまった。
それでも多くの業界人で彼の趣旨そのものには同感した人は多いはずだ。


確かにエンタメ業界で働く人間は、仕事と趣味の境がなくて好きでやっている人間が多いのは事実だろう。

昨今では、ゲーム業界がそれを継いでいると言われている。
逆にそれを誇りにして働いている人たちもいることはいるし、金よりもやりがいだと言う人だって多いだろう。
経営者にすればありがたい存在だ。
しかし、自分の経験を踏まえてみると、そういう従業員の自発的な労働に胡坐をかいて
ビジネスしているエンタメ業界各社の経営は、結局のところ典型的な「搾取業界」だと言い切れる。
おまけに儲かった時に潤うのは、従業員ではなく、殆どの場合、経営側(企業)とタレント(アーティスト)なのだ。


従業員が自分の意思で好きで勝手にやっているのだから法規定の対価を無視して良いと言う訳ではない。
また、松浦社長は経営者であって従業員ではない。経営者にはタイムカードはないが従業員にはある。
こういう立場と事実を踏まえないまま、仕事とプライベートの境なんてないんだ・・という発言は、
経営者としてはちょっといただけなかったと思う。だからこそ炎上したのだろう。
裁量労働制に移行するとも聞くが、これが労働者側に不利になるのは目に見えている。


一般の人にはピンと来ないだろうが、エンタメ業界の従業員の給料は、平均的に見ても低賃金業界だ。
エンタメ系上場企業の給与を他の上場企業と比較しても、6~7割程度だ。

ミュージックマンネットというサイトにある、業界の募集記事を見ていると、殆どが新入社員に毛が生えた程度の給与だ。
http://www.musicman-net.com/

また、個人事務所になると多少の濃淡はあるが福利厚生までを加味するとかなりお寒い状況だ。
例外は、レコードメーカー位で、彼らの親会社は通常一部上場企業であり、親会社に準じた給与体系であるため、
一般的なエンタメ業界の給与体系とは異なる場合が多い。
従って現在でもレコード会社は斜陽産業である割にはかなり給与が高いと言えるかもしれない。
(もちろんレコード会社でも濃淡はある)


エンタメ業界でアーティスト以外で一般的な収入を大きく超えるには、大手事務所の管理職になるか、役員になるか、独立事務所を構えてタレント(アーティスト)を売るしかない。
そういう意味で、成功すれば普通のサラリーマンを大きく超えられるし、そうでなければ全然超えられない、もしくは普通のサラリーマンがセレブに見えるくらいという業界なのだ。


エンタメ業界のダイナミズムは特殊だ。
その特殊さ故に、彼の業界人の多くは魔法がかかり、魔法にかかったまま働ている人間がかなり多い。


その業界にも懸念点がある。
元々エンタメ業界は、ビジネスモデル的に業務効率の悪い業界だ。
アーティスト、タレントは人間だし、普通でも手間暇かかる相手だ。優秀なアーティスト、タレントほど扱いにくいとも言える。
また、映像関係なんて想像を絶する手間暇の集積であり、音楽制作、ライブ活動作等も同様だ。
加えて、手間暇かかる割に成果が出る確率が高くないし、成果が出るまでにかなり時間もかかる。
もちろん当たれば過去の負債を吹き飛ばし、大きな成功を収められるが、そういう人は万に1人って確率だ。
そうなると普通経営者が考えるのは固定費、特に人件費の抑制なのだ。
人件費を残業代を含め法定通りに支払っていると原価が上がり経営を直撃する。
従ってエンタメ業界にとって残業代を法定通り支払うという行為は、経営そのものを否定しかねない部分があるのだ。


私が前述した「搾取業界」という表現の根本的な部分はここにある。
つまり、エンタメ業界は、好きな連中が自発的に勝手に働いてくれて、給料はそこそこでもたまにちょっとメシでも食わせておけば文句を言わないような環境下でないと成立しない部分が多いという事だ。
業界的な「役得」もない訳ではないので、搾取だと思っていないで働いている人は多いだろう。
また、自分の労働行為1つ1つに一々対価を求めない風潮だって普通に慣習として残っている。
しかし、それは業界内に通用する話で、一般論的には搾取もしくは搾取に近い状態と言って良い。
それでも自発的であればまだ救われる部分はあるが、後で考えると寂寥感に襲われる人も多いのではないだろうか?


いずれにしても、特にエンタメ業界の上場企業系にとって残業代は経営上、かなりのリスクとなるだろう。
朝までやるようなレコーディングにスタッフが永遠と付き添っていても、ビジネス的に生み出すものが多くなければ
残業代を払いたくないのは当然だが、だからと言ってミュージシャンを放置しておくわけにもいかない。
実際私の知り合いのレコーディングエンジニアも、管理職として残業に取り組まざるを得ない時代に苦悩している。特にミュージシャンのような仕事は時間に縛られない。しかし多くの業界人はいわゆるサラリーマンとして働いており、時間管理が必要だ。ミュージシャンの要求を満たす義務のあるサラリーマンというのは実際問題として落としどころが難しいのだ。
ミュージシャンやタレントたちは、子飼いのスタッフが自分の仕事場からいなくなるのを嫌う傾向がある。スタッフにとってはお守りに等しいが、彼らの機嫌取りも大事な仕事の1つなのだ。
ミュージシャンやタレントの付き合いで朝まで飲み会に付き合っても、それが即お金を生む訳でもない。タレント、代理店、放送局の連中と飲むのが仕事なんて言われているが、まさにそういう部分は実在するし、そういう部分で培った人脈が仕事の源泉とも言える。
ミュージシャンやタレントからすれば、「無駄の集積」こそが、タレント性を発揮する源泉とも考えているだろうからだ。
かようにエンタメ業界は、業務に無駄が多く見えるが、逆説的にはそれが新たなクリエイティブを生む根源なのだとも言える。しかし昨今の音楽業界を見ているとそれも怪しい。
時代が変わってしまい、無駄の集積が金の卵を産まず、本当に無駄の集積になりそうなのだ。考えてみれば当然で、これまで10人のうち、1人が大ヒットし、2人が中ヒットすればビジネスの辻褄を合わせられたが、大ヒットも中ヒットも出ない時代ではビジネスをしようがない。売れるヤツは売れるが売れないヤツは売れないだけということだ。でもその売れるヤツをこれまでのように投資して見つける事が音楽業界では出来なくなっているということだ。
ユニバーサルの新しい社長と言われる人物が、これからは東京ドームや紅白に出れるようなヤツしかウチではやらないと言ったそうだが、その良い結果論を始まる前に的確に見つけられるのなら、音楽業界は苦労しないのである。

エイベックスの残業代支払いは、そういうエンタメ産業の抱えるビジネス的な矛盾にかなり大きな課題を突き付けた問題と言えよう。同業者の今後の対応が見ものである。





nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。