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ミュージシャンの経済学 番外編 ~ミュージシャンのキャリア設計を考える~(1) [音楽に関わるブログ]

ミュージシャンの経済学 番外編 ~ミュージシャンのキャリア設計を考える~



2019年から始まったコロナ禍。



当初の予測を覆し、2021年秋になってもコロナの影響から逃れられないままだ。



私はコロナ発生当初、2021年秋頃にはワクチン接種が一巡し元の生活に戻れるだろうと推定していたがその予想は外れた。



デルタ株の蔓延とコロナウイルスの本質的な性質の分析が不十分であることで評価を確定出来ないままだからだ。



さてコロナによって経済的ダメージを受けた業界の1つにエンタメ業界がある。



ミュージシャン、イベンター、演者、舞台製作関係者等々、売上げの90%以上を失い、政府からの補助金等を活用して命脈を維持している。段階的な緩和解除によって多少の光は見えつつあるが、まだアメリカのような本格的活動解除は先である。



 



現代のミュージシャンにとってこのコロナ禍は、ウイルス感染による生命の危機に瀕したと同時に、事実上の活動停止による生活維持への困難が覆いかぶさった。



日本とアメリカでは多少事情が違うのだが、アメリカのトップミュージシャンの全収入に対するライブ活動が占める割合は約80%だ。多い人だと90%を超える。



ポールマッカートニーが、何故あれ程のキャリアを以てして毎年参鳥ワールドツアーをやり続けているのか疑問だったのだが、彼の収入の80%以上がライブからもたらされると判れば納得行く。



アメリカの2017年のデータだが、アメリカ人の音楽への個人支出額は185億ドル(約2兆円)だそうだ。でもこれはアメリカのGDPの1%未満、1000ドルの支出に換算すると1ドルに満たない。ちなみに音楽産業従事者は全人口の0.2%未満だという。



そう音楽業界は、影響力や印象に比べて産業としては驚くほど小さいのだ。 



そうしたデータに触れると、日本においてユーミンが1年半にも及ぶツアーを組む理由も見えてくる。彼らにしてもライブを止めれば大減収を受け入れなくてはならないのだ。



日本でも世界と同様で、大半のミュージシャンの収入源はライブ活動からもたらされる。



それがこの2年近く、ほぼゼロか大幅減収となってしまった。



当然、バックミュージシャン、イベンター、音響、照明関係、舞台関係者等にも影響が及んでいる。そろそろ限界に近いと言わざるを得ない状況だ。



実は、世界的にミュージシャンの経済格差は一般的な差を超える度合いで広がっている。



世界のトップミュージシャンとなれば二十億円程度の収入があるが、アメリカのミュージシャンの収入の中央値は約2万ドル程度だ。約10万倍の格差だ。



日本のGDPや市場環境からの推計をすれば、日本のトップミュージシャンで1億円以上をコンスタントに稼いでいる人たちはホンの一つまみだろうし、多くのミュージシャンの中央値の収入は数百万円程度だろう。



ちなみにサラリーマンと経営者の格差は広がっているが100倍程度だ。



(日本人経営者で最も高給取りなのは、ソニーグループの吉田謙一郎社長)



1980年~90年代後半にかけて、レコード、CDが売れた時代はスタジオ作業でのミュージシャン需要が多く、一流のスタジオミュージシャンであれば年収数千万円程度を手に出来たはずだが、現在のレコーディング予算は当時とは比べんものにならない位まで下がり、加えて制作数も激減しているため、スタジオセッションだけでそれだけを稼ぐのは不可能で、誰かのライブで演奏出来なければそれなりの収入を確保出来ない。



 



世界的見てもミュージシャンは稼ぎづらい職業になったと言える。成功と言える所に到達できる人は一つまみしかおらず、大半は不安定な収入に苦しむし、人によっては普通のサラリーマン以下だからだ。



世界のトップアーティストでも金融関係やGAFAなどの企業の経営者、スポーツ選手の半分程度しか稼げない。



それでも音楽が好きで、ミュージシャンを選択する人は絶えないし、昨今ではネットの技術を使い、これまでとは違う方法で音楽活動をしているミュージシャンも出現し ている。



ペイトリオン.comを使ったB to Cビジネスモデルは、ミュージシャンに売上げの90%を分配するシステムを採用しているが、アマンダ・パーマーのケースでは2年で約1億円近くが分配されたという。



勿論、彼女は一般的なケースではないかもしれないが、事務所やレコード会社などの中抜きをしたB to Cビジネスモデルはこれからミュージシャンを目指す人たちが考えておくべきビジネスモデルだと思う。


デジタルの強いはこれまでの関所を破壊することにあるのだから。


 



余り語られないがキャリア形成という視点で、ミュージシャンの在り様はどうなのだろうか?と考えてみた。



1959年生まれの私にとって音楽業界は眩しく輝いている産業だった。



それから60年以上が過ぎて音楽業界を俯瞰すると、当時のような輝きはなく、そのために色々と見える事が多い。



日本の音楽業界のピークは1997年だった。CDの売上は8,000億円を超えまもなく1兆円が見えていたからだ。印税で1億円以上を稼ぎ出すミュージシャンも多かった。



当時のトップミュージシャンは、ヒット作品を出していれば不労所得を得て、次の作品を作るまでのモラトリアムの時間を得る事が出来た。



儲かっている産業には若い優秀な人たちが沢山入ってくる。



それによってミュージシャンもスタッフも様々な才能が集い、産業を大きくした。



 



それを根底から覆した人物がいる。



 



スティーブ・ジョブス氏だ。



ituneのサービス開始によりCDのビジネスモデルは壊滅的打撃を受けた。



但し、ジョブス氏が手を下さなくても遅かれ早かれ誰かが同じようなモデルを打ち出しただろうことは分かっている。



音楽業界は技術発展に沿うようにして大きくなって行った産業だが、インターネットの発展によって産業構造を破壊された稀有な例となった。



2000年冒頭にエイベックスの松浦氏がある雑誌インタビューで語っていたあることを記憶している。
“もうすぐ音楽CDは広告付きで売られるようになり音楽は無料になってしまうだろう”。



現在のSpotifyYou Tubeを考えれば氏の予言は全く当たっている発言だ。



当時はそんなバカな・・と考えていた人が大半だったが、見えている人には見えていたのだ。しかし未来が見えていたはずの松浦氏が役員を務める肝心のエイベックスは、現在は業績構築に苦戦苦闘しており、株価を下げ、自社ビルまで売るほどになっている。



音楽ビジネスの舵取りの難しさを象徴していると言っていいだろう。その間、ソニーミュージックは、実態としてはアニメ会社に変身してしまった。



 1960年代から70年代に出現したミュージシャンで、今日の音楽を成立させた重要なポジションを占めた人たちの中で裏方から表側に異動した人たちは数多い。



はっぴえんどというバンドでデビューしたものの、当初は殆ど売れず、その後メンバーはプロデューサー、作家、スタジオミュージシャンなどを経て、それぞれがソロミュージシャンや大物作家としてのキャリアを成功させた。



細野晴臣氏、大滝詠一氏はソロミュージシャン、松本隆氏は作詞家、鈴木茂氏はギターリスト兼プロデューサーとして生き残った。



同時代のキャラメルママのメンバーだった松任谷正隆氏はユーミンを得て、彼女のプロデューサーとして君臨した。



同時代に出現した山下達郎氏は、シュガーベイブという売れないバンドを経てCM作家で食いつなぎながら売れないソロアルバムを出していたが、1980年、ライドオンタイムでブレークし、その後はご存知の通りだ。



坂本龍一氏は、大学生時代からスタジオミュージシャンをやっており、その後アレンジャーにもなったが、細野氏にYMOへ誘われて加入した事でキャリアが二段階特進し、その後ソロミュージシャンとしてや映画音楽作家として大成功を収め現在に至っている。



もし坂本氏がYMOに誘われず加入しなかったら彼のキャリアはどうなっていただろう?



YMOは坂本氏なしでも成功しただろうか?



戦場のメリークリスマスの仕事は坂本氏の手に来ただろうか?



そしてラストエンペラーの仕事は?



こうして見れば運という部分も相当重要な要素と分かる。



レコード会社等のオーディションで発見されデビューシングルから檜舞台から落ちず、約40年以上を売れたまま飛行しているのがサザンオールスターズだが、こうしたケースは例外中の例外だと判るだろう。



(つづく)

 

引用資料:

経済はロックに学べ!/アラン・B・クルーガー

 


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