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悩ましいエンタメ業界の未来 ~ストックビジネスとフロービジネス~ [独り言]

悩ましいエンタメ業界の未来

~ストックビジネスとフロービジネス~


本文は2020年8月25日に記載している。

コロナ禍で世界中、未来が不透明だが、それでも我々は先を見据えて準備をしなくてはならない。

ワクチンの開発は急ピッチで進行中だが、早期開発後のリスクがどの程度なのかは誰にも分からない。


どの産業も例外なくコロナの影響を受けている。

殆どは負の影響ばかりだが、正の影響を受けた産業も若干ある。

ゲーム産業だ。

任天堂の売上と利益は過去最高だし、

ソニーの決算においてもプレステ4関連は別格の売上と利益を出した。


しかし、エンタメ産業、観光関連、サービス産業(飲食)等は、負の影響をまともに受けてしまった。


ここでは主としてエンタメ産業の未来に行く末とビジネスモデルの転換の勧めについて書こうと思う。


まず、特に音楽産業において、ライブビジネスが壊滅的打撃を被っている。

2019年度の段階で約3660億円(コンサートプロモーターズ協会調べ)の産業だったが、

2020年度に入ってからはコロナの惨禍で売上は限りなくゼロに近い。


ライブビジネスは、アーティストを頂点として、事務所、イベンター、バックミュージシャン、

音響、照明、楽器、美術、グッズ、リハスタ、チケット代理業、映像制作、トランポ、会場、仕出しなどと産業の裾野が広い。

当然だが、ヒエラルキーの頂点にいるミュージシャンが主催するライブに集客出来ない環境のため、トリクルダウンが成立しなくなってしまった。


現在は苦肉の策でライブ配信を実施しているが、特にアリーナ級のツアーが出来るアーティストにとっては、十分とは言えないビジネス規模だ。

サザンは6月下旬に横浜アリーナを使って15万人有料視聴の配信ライブを実施した。

1視聴辺り3600円だから、5.4億円の売上と推定出来る。

サザンクラスでこの視聴動員数と売上と分かった事は興味深い。


サザンの直近のツアー動員数は、55万人と言われているが、チケット代を乗じると売上規模は30億円台だ。

これにグッズの売り上げが別途加わるが、多分5~10億円前後辺りだろうと推定する。

配信ビジネスの規模がリアルライブと比して大幅に下がるのは宿命ともいえる。


さて、2019年に全米で最も稼いだアーティストは? 

米ビルボード“Money Makers”ランキング発表(Billboard JAPAN)によれば以下のようになっている。





興味深いのは、トップ海外アーティストの大半が、ツアー収入がビジネスの柱だという点だ。

これは世界的傾向で日本も例外ではない。

なお、クイーンは、トップ10の中で例外的には各項目の売上比率のバランス良い。

特にセールスとストリーミングの売上が他のアーティストと比較して、

圧倒的に高いのだが、これは映画「ボヘミアンラプソディ」の影響が強いからだろう。

クイーンのストリーミング収入を超えているのは、ジャスティン・ティンバーレイクとアリアナ・グランデだけだが、クイーンの長いキャリアを考えれば、驚異的と言っていいだろう。


(参考)

クイーン / $35.2M(37億1,600万円)

 セールス $9.6M(10億円)/ ストリーミング $8.1M(8億5,500万円)/ 

出版 $3.1M(3億2,700万円)/ ツアー $14.4M(15億円)



配信ライブビジネスの場合、同じセットメニューや演出を何回も配信すると新鮮さを失うので、

ビジネスチャンスがワンチャンス+αになってしまうというデメリットがある。

また技術的なバラつきがあるため、安普請の配信システムで行うと、

音質、映像に不具合も出易い。

つまり質の担保が困難なのだ。


配信の売上だけでは足りない場合、

売上を確保するために、チケットとグッズを抱き合わせる販売方法も考えられるが、

実際のライブ会場で売るよりも買う側の観客の興奮度が下がるため、

グッズによる補填部分は読みにくい。


ホールツアーの場合、一会場で75%以上の集客がないと利益ベースに乗らない。

現在のように政府から入場数の制限が出ている段階では、

ホールツアーを行う事は、そのままビジネス的な自殺行為になってしまう。

当然だが、もともと集客キャパ数の少ないライブハウスは、

さらにビジネスを成立させるのが更に困難だ。

またアリーナツアーの場合でも、連続した3公演の内、1.5公演分は赤字で、

1.5公演分がトントンか黒字になる程度だ。

実際の利益を出してくれるのは観客が買ってくれるグッズ収入なのだが、

現在はリアルの集客出来ないため、グッズをライブと同様規模で売る事も不可能だ。


音楽産業の場合、最悪だったのは、

多くのミュージシャンのビジネスモデルで、

フロービジネス(流動ビジネス)と

ストックビジネス(累積ビジネス)のバランスが余りにも悪かったという事だ。

フロービジネスというは、ライブのような実際の事業を実施し、

都度都度集消費者に消費させるモデルだ。CD販売やグッズ販売もこれに当てはまる。

反対にストックビジネスとは、例えばファンクラブのように年会費を集め、会員数に

大きな変動がなければ毎年度の売上と利益がある程度計算できるモデルだ。

先ほど書いたクイーン等ののビジネスは多くはフロービジネスだ。


昨今定額制ビジネスが発展しており、NETFLIXやSPOTIFYなどが人気だが、

ストックビジネスの強みを生かしている代表格だろう。


ミュージシャンのビジネスの場合、例えば数十万人のファンクラブ会員がいる場合であれば、

コロナ禍の中でも最低限度のビジネス維持が可能だ。

例えば年会費5000円で10万人の会員がいれば5億円の売り上げになり、

また会員全員に追加の売上(グッズ販売等)が出来れば、プラスを見込める。

仮に半分の会員が一人年間で5000円を追加支出してくれれば、

売上は7.5億円となり、

ミュージシャンや事務所関係者もそれなりの規模を維持できるだろう。

ストックビジネスの利点は、安定した収入と利益が確保できるだけでなく、

キャッシュフローの維持が楽な点にある。

毎年の退会者数は、過去の履歴からある程度読め、

先々の残存者数も一定の範囲内で読めるため、

毎月のキャッシュの動きが把握し易い利点がある。


日本で最大のファンクラブ会員数を保有しているのは、

おそらくジャニーズ事務所だろう。

彼らでさえもコロナ禍の影響によるライブ活動の中止で、

大きな損害を受けているだろうが、

日本有数の会員を誇るファンクラブ事業があるため、

当面のキャッシュに困る事はなく、

先々の事業維持が見通せるという訳だ。


もちろん例えばファンクラブの場合、その存在価値が、

アーティストやタレントのコンサートチケットが優先的に取れるという部分に

大きく依存しているため、

コロナ禍で、ライブ開催が長期に渡って出来なくなると、

会員になっているメリットを感じられなくなり退会者が続出することは避けられない。

それでも知恵を働かせてアーティストやタレントのファンクラブ向けだけの発信等で

付加価値を付ける事が出来れば、退会抑止を一定範囲に抑えられるだろう。


いずれにしても、こうしたストックビジネスの基礎を持ったミュージシャンやタレントであれば、

当面の支出を管理することでこのコロナ禍の苦境を乗り切れるだろう。

しかしフロービジネス、つまり、ライブ収入等への過度の依存がある場合、

今回のようなコロナ禍の直撃を受けてしまう。


ライブ関係で言えば、前述したようなイベンター、バックミュージシャン、

音響、照明、楽器、美術、グッズ、リハスタ、映像、トランポ、会場、仕出しに

従事する人たちはフロービジネスだけで営んでいるため、

危機を回避するための道が殆どない。

またミュージシャンの事務所でも、ファンクラブの会員数がそれほど多くなく、

全体の売上に占める割合が少ない場合、こうした危機が直撃するケースとなる。


それでもキャリアが長くヒット作品の多いミュージシャンの場合、

過去の作品の印税収入である程度を乗り切れる場合もあるだろうが、

やはりライブ収入の激減は、ファンクラブのようなストックビジネスを抱えていない限り、

厳しいと推察できる。


この先のエンタメビジネスの未来を見据えた場合、

フロービジネスとストックビジネスの両方に天秤を掛け、

どちらかに依存し過ぎないビジネスモデルの中で活動を考える必要があるだろう。

勿論、そうしたビジネスモデルの維持を考える事は、事務所の社長や役員たちが主体だが、

特にエンタメビジネスについては、ミュージシャンやタレントたちの

ビジネスへの理解が無いと成立しにくい。

これはビジネスに直結したエンジンが彼らだからだ。

ミュージシャンやタレントの中には、

ビジネスは自分たちの仕事の範疇ではないと考えている人たちも多いだろうが、

今後の時代において、そのような人たちは自然に淘汰されると予言しておく。

特にミュージシャンは、音楽を生み出す行為と金になる事が直結するように見えることを嫌う傾向がある。

金の事を語るのは穢れているという感じだ。

ミュージシャンにとって理想的なのは、自分が自然に生み出した音楽が、自然に世の中に伝わり、

結果的に金銭として帰ってくるような形が理想的で、ビジネス目的で音楽を作っているんじゃない、

という意識がどこかにあるだろうと思う。

それはそれで素晴らしい理想論なのだが、結局ミュージシャンは、

自分の生み出す音楽を金銭に変えられなければ、活動の資金を失い活動そのものが継続出来ない。

ミュージシャンのクリエイティブとビジネスとの距離感は大変に難しい課題だが、

綺麗ごと言っていても未来はない。

実際、今回のコロナ禍で一番の困難は、キャッシュを産まなくなってしまったことだろう。


売れているもしくはキャリアが長く成功しているミュージシャンは決定権者であり発言力が強い。

彼らの意向は、必ずビジネスに直結するし、それは自分たちに跳ね返ってくる。


だからプロでやっているミュージシャンは、絶対にビジネスを無視しては活動を維持出来ない。

従ってミュージシャンがビジネスに関する理解をする事は、

自分の音楽制作活動を後押しすることになり、必要な素養と言っていい。


だからこそ、コロナ禍で事業や収入に大きな影響を受け、存亡の危機に立っている今、

今後のビジネスの在り様を考え実行する絶好のチャンスなのだ。


映像や音楽の世界でNETFLIXやSPOTIFYのようなストックビジネスが幅を利かせている現実を、

同業者はもっとシリアスに捉えるべきだと思う。


いずれにしても、コロナの影響は、今後約2年程度をかけて断続的に続くと見るのが自然だ。

従ってライブエンタが且つてのようにな環境になるためには、

ワクチン接種が国民の大多数に実施され、尚且つ効力があると信じられ、

副作用が問題にならないほどしか発生しないと多くの人々が信じた先にある。


つまり、飛沫感染を全く不安に思えなくなるような環境が日本中、世界中に

定着しない限り、ライブエンタが前の姿に戻る事は絶対にない。

感染リスクへの恐怖は、理屈ではなく生理的な部分が大きい。

恐怖が存在する間は、観客数の制限、観客も声を出しての応援や座席を立ったりする行為等への

制限が残るだろう。

また特定の年齢や性別にファンが集中しているライブの場合、

大人しく座って一言も声を発しないでライブを観てください、と言っても管理出来ないだろう。

大変残念な言い方だが、この点において、ミュージシャンやタレント、また、

エンタメ関係者が積極的に出来る事はなく、周辺環境が整うのを待つしかない。


2020年5月の段階で12月のドーム、アリーナクラスでライブを開催予定し、

チケットを発売しているアーティストもいるが、明らかに判断を誤っだと思う。

何故このような決断をしたのか不思議でならないが、この辺りを深く考えないと

将来的な活動に大きな影響が出るだろう。

アーティストの立場からすれば、未来に向けた期待を込めて、

何でもいいから客との接点を持とうとするだろうが、

ビジネスを無視した活動を優先すれば、ミュージシャンやタレントとスタッフが共倒れになる。

こういう時代だからこそ、冷静に先を見据え、焦って無駄な動きをしないのも、

知恵のある者のやることだ。

もし事務所のキャッシュフローが事業継続に耐えられない場合は、

大手事務所やレコード会社への吸収を容認してでも先に繋げられる事を考えるべきだと思う。


従って今後、資金力のない音楽事務所、イベンターや関係法人は、業界内の資金力のある組織にM&Aされ、

統合されて行くだろう。

これは致し方のない現実であり、それによって生き残る事が出来れば、まだ良いだろう。


かなり楽観的に見ても通常のホールツアーの開始可能時期は、
2021年10月以降と見るのが自然で、もう少しリスクを減らそうと考えれば2022年4月以降になるだろう。アリーナクラスはずっとその先になる。
当然だが、ワールドワイドクラスのツアーをしているアーティストの、本格的ツアー再開は、2022年4月以降のどこかになり、日本にアリーナクラスのアーティストが来日出来る環境は、2022年10月以降だろう。
海外アーティストは、本人だけでなくバックミュージック、関連スタッフなど帯同する人数や機材も多く、感染管理は膨大な手間を金がかかる。
従って海外アーティスト公演の売上がメインのイベンターは、今後経営が厳しくなるだろう。
国内アーティストのイベンターは既に飽和状態で、入り込む余地が殆どないのも逆風になるだろう。
現在の情報から推定すれば何らかのワクチンが出てくるのは2021年前半以降と見ている。
仮にこの推定が有効だと仮定して、日本国民の半分以上が接種出来るまでにはそれから1年程度は見ておいた方が自然だ。つまり2022年秋頃だ。
また接種は高齢者、医療関係者、政府関係者、消防、警察等から始まり、若年層が最後になるはずだ。
ライブ動員の主要な顧客層が最後のワクチン接種者になるという事は、それまでの間、ソーシャルディスタンス等の措置が必要となる。
感染が落ち着いて来ても、再度感染者数が増加する傾向は各国で見られてもいる。
今後出てくるかもしれないワクチンが有効なのか、副作用はないのか、など課題は山積だ。
抗体医薬にも期待が寄せられるが、まだ臨床試験が開始したばかりだ。
いずれにしても医療へのアプローチは散発的に発生し、安定した医療手法になるには年単位で見る必要がある。
この話は日本国内だけの話だが、世界とリンクした話になれば、もっと時間がかかると見るのが自然だ。
現時点から見ても通常のオリンピック開催は、現実的にみて不可能かもしれない。
大会の開催方法を大幅に見直し、受け入れ選手団の管理を徹底出来るかどうかだろう。
海外からの観客を無作為に受け入れるやり方は、日本国内に相当なリスクを背負うため困難だろう。
選手には大変に気の毒だが、開催はかなり限定的な方法を探るか、他の競技会等で代替するしかないだろう。
当面ライブエンタに出来る事は、少人数の観客を入れたライブと配信を組み合わせた形か、配信前提のコンテンツ作りをするしかない。
また配信環境や配信演出をライブでは味わえない付加価値を付けた商品開発として配信するしかないだろう。
ただ、残念だが配信ビジネスはライブのように同じ内容を別の場所で見せて売上げを上げることが出来ない。
これは今後の課題だろう。
また何度も書いたが、今後のエンタメ業界は、フローとストックビジネスの両輪をバランス良く考えないと今後の事業リスクの管理が出来ない。
コロナ禍は、それを教えてくれたと言っていい。
ある意味チャンスだとも言える。
事業ポートフォリオを見直し、今後も続くだろう感染時代を乗り切る施策をしなければ、
エンタメ事業の未来は不透明のままになるだろう。




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