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「制作委員会のカラクリ」 ~共同事業に参加する時に気を付ける事~ [独り言]

「制作委員会のカラクリ」
~共同事業に参加する時に気を付ける事~



こんな記事が掲載されていた。


ヒット豊作でもアニメ制作企業46%が減益の謎 「製作委員会方式を見直す時期にきている」とジャーナリストは指摘
https://news.careerconnection.jp/?p=39951


「制作委員会のカラクリ」というタイトルを付けると制作委員会による共同事業がインチキのような印象をもたれるかもしれないが、制作委員会や共同事業そのものはインチキでも何でもない。れっきとした経済行為だ。
昨今、特にエンタテインメント事業において制作委員会や共同事業を組成してパートナーシップを組み事業を行うケースが多くなった。
映画や興行のように巨大な資本投資を投下する分野ではこうしたケースが目立つ。
これは映画や興行が水物で、リスク分散をさせたいという点で主催者とパートナーの利害が一致する点と、
パートナーになれば、事業分野で事業の地位を獲得できるという点だ。
つまり共同事業に出資参加することで「事業の入場券」を獲得できるという事だ。


さて、「制作委員会のカラクリ」と題した本文に、延々と制作委員会/共同事業の経済的な仕組みを書いて最後に結論を書くというマドロッコシイ方法は取るつもりはない。
まず、結論だけを先に書くので、その理由等を知りたければ先を読んで欲しい。


結論:
(1)制作委員会とは、事業内で最も売上の高い立場や事業ポジションを確保する目的であり。事業参画も重要な要素。
(2)事業参入額の償却は、自分の事業ポジションの手数料を主とし、事業体からの分配は二次的要素。
(3)制作委員会とは、共同で事業をすると言いながら、事業体が赤字でも構わないという発想で組成される場合がある。
(4)最悪の共同事業者とは、上記(1)から(3)を知りながら低率で事業参加し、最も稼ぐポジションを確保しようとする参加者だ。言い方を変えると売り上げと手数料が多い部門なのに参入費用比率が低いという事だ。
(5)出資比率と利益率は、各事業者の事業規模と獲得する手数料の影響で比率に絶対比例しない。
(6)事業体の中で売上の小さい分野に参加しても得られる経済的なメリットは小さい。



解説:


アニメ映画事業を例に上げる。制作費20億円(P&Aを含む)としよう。P&Aとはプリント&アドバタイジングで
劇場利用用の最終映像(昔はフィルムだが現代ではデータ)と宣伝費の事をいう。
こうした映画事業の共同事業体(以後「ポッド」という)は、「映画のタイトル+パートナーズ」とか、「映画のタイトル+制作委員会」という名前になっている事が多い。通常こうした共同事業に参加するのは、テレビ局、配給会社、広告代理店、玩具制作会社、声優タレント事務所、映像関連会社等だ。
では、仮に出資比率を以下のように仮定してみよう。以下の仮定は、説明を容易にするために実態よりも簡素化している部分があるのでご了承を。


出資比率だが、配給会社35%、テレビ局:25%、広告代理店15%、DVDメーカー10%、玩具制作会社10%、映像制作会社2.5%、声優事務所2.5%。
さて、上記参画者は、以下のような事業分野において記載のような手数料を取る。


配給会社(幹事会社):配給手数料として20%、幹事手数料は事業体が黒字の場合で5%。
テレビ局:番組販売(海外含む)+配信業務(海外含む)&イベント関連として20%
広告代理店:宣伝+タイアップ関連業務として20%
玩具制作会社:玩具制作と流通業務で20%。
DVDメーカー:DVD関連について15%
映像制作会社:映画の映像制作関連業務として15%
タレント事務所:映画のブッキングエージェンシーとして20%。


ちなみに、本映画事業において売上が大きい順に並べると以下のようになると推定される。


(1)映画配給事業
(2)玩具制作会社
(3)DVD事業
(4)番組販売事業+イベント
(5)タイアップ関連事業
(6)他


もちろん上記の順番は市場形成によって順位変動する点は了承して欲しい。
思ったよりもDVDが売れて玩具に火が付かない場合だってあるからだ。


さて判り易い例なので、配給分野に絞って解説する。
この映画の興行収益が40億円だったと仮定する。現代の日本ならヒット作品と言っていいレベルだ。
最初の映画興行によって各事業参画者にどのような金銭が残るかを以下に記載する。


まず、興行収益が40億円の場合、劇場が半分を控除してしまうので、配給会社に入るのは20億円だ。
上記記載の配給会社の手数料は20%だから、4億円を獲得できる。
20億-4億=16億円。まず興行収益からポッドに入る額は16億円ということだ。
この16億円に対して制作費等で20億円がかかっている訳なので、ポッドは4億円の赤字になる。


これを出資比率等で分配をすると以下のようになる。


配給会社:
出資額:7億円。
配給手数料収入:4億円。
幹事手数料:0円
この時点での配給会社の収入は合計4.0億円。回収率57%。


テレビ局など他の事業参加者には配分はない。ゼロだ。
この時点で収支に差がついている点は重要だ。



ここで注目すべきなのは、映画事業において「売上高の高く手数料率が高いメンバーだけが他のメンバーよりも多額の利回りを出せる構造」になっているという点だ。
これは全て「売上ポーションの大きな事業を複数確保し、そこに高い手数料を設定する」というルールがこのゲームの本質だからだ。
事業体が赤字でも配給会社は一定の額を回収できる構造になっているのはこれが理由だ。
これを知らないで共同事業に参加すると大変な目にあう。


ちょっと逆の言い方をすると、初期の映画興行においてヒットしないと配給会社以外の事業参加者の損害率はより大きくなるのだ。
もちろん配給会社は他のメンバーよりも投資額が大きいが、回収方法が他のメンバーよりも条件が良いため、損害率が小さくなる。
それは配給手数料が20%あり、幹事手数料を設定すれば更にリスクを低減出来るからだ。
配給手数料というのは、持続的な経費が掛からない分野から印税のように売上を創出できるため事業効率がいい。
もちろん興行収益がまるでダメだと配給会社の絶対的な損害も大きいが、回収率は他の参加者よりも良くなる。
これは何故かと言えば、事業規模の大きな椅子を獲得している参加者が手数料によって稼ぐ可能性を高く設定しているために他ならない。


つまり仮に作品が大きくコケても配給会社のダメージは他の参加者よりはましであると言えるし、ヒットした場合、他の参加者を大きく
上回る利益を創出できる仕組みなのだ。


さて、「君の名は」の興行収益は300億円と言う。つまり配給会社には150億円が入り、手数料収入は30億円を下らないという事だ。
ポッドには120億円が入り、10億円の制作費は分配と同時に償却される。
「君の名は」の制作費とP&Aは、かなり高めに見積もっても10億円程度だろう。
仮に50%(5億円)を配給会社が出資したとすれば、手数料収入は30億円+分配金55億円=85億円が戻ってくる。
利回り約170%だ。
ちなみに映像制作会社が5%を出資(5,000万円)をしていたとしたら興行収益分として戻ってくるのは5,500万円+制作関連手数料程度だ。
利回り10%+αという事だ。
事業の立ち位置が違うだけで同じ座組の会社にこれだけの差が付くのだ。
これが「共同事業のカラクリ」なのだ。
これを知らないで共同事業に入る会社は多い。
だからこのカラクリを知った上で、事業参加しないとリスクばかりを取る役目を押し付けられる。
成功して多少でも金が戻ってくればいいが、赤字の時は弱い座組位置にいると一溜りもない。


また、この点にはなかなか触れられないが、この映画を作った監督、アニメーター、声優らは、
この儲けの中からどの程度クリエイターに戻っているのか、いないのか?は気になる。
クリエイターが印税契約でもしていればと思うが、特に声優などは買取契約になる事が多く、彼らには殆ど戻らないだろう。
しかし、今後日本がこの分野で世界に貫いて行こうと思ったら、クリエイターへの還元は、事業戦略として
キチンと対処しておいた方が良い問題だ。
昨今アニメーターの生活困窮が伝えられている。
彼らのやる気だけで支えられている産業であるのは事実であるが、若者たちに未来展望としてアニメーターを選択する事がプラスにならないと
判断されてしまえば、産業を支える事が出来なくなると思う。
出来上がった作品を右から左で動かして殆ど付加価値を付けない配給会社が一番儲かり、一から作品を作っている人たちが
配給会社よりも遥かに儲からない仕組みというのは、レコード会社を見ても分かるようにいずれに社会から価値の在り方を
突き付けられるだろうと思う。
「君の名は」のように爆発的に儲かった作品であればこそ、監督、制作者、声優などへの還元は、今後の作品継続のために重要だ。
特に監督家業は、数を熟さないと収入に結びつかないため、優秀と見込んだ監督ならば、数年に1作品でいいような体制にする必要があるだろう。
その分配責任者として一番に挙げられるのは、一番儲けた会社に義務があると言っていい。
そうしなければ作り手は減り、結局事業を組むことさえ出来ないのだから。


特に映画事業の座組で美味しいのは、配給会社、DVD関連(売れる場合に限るが)だが、玩具グッズ)関連、また
放送(+配信)+イベント関連事業だろう。この辺りにポジションを取っていないと旨みはない。
広告代理店は、参入額を小さめに設定して、タイアップをキチンととれれば、それだけで参入額を回収できる。

共同事業はなかなか手ごわいのでご注意を。













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