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アクリフーズ事件に潜むものを考えてみた [独り言]

マルハニチロホールディングスの子会社アクリフーズの契約社員、阿部利樹容疑者(49)=偽計業務妨害容疑で逮捕の件を見て、中年期の非正規労働者の厳しい実態の1つを垣間見た思いがして複雑だった。阿部容疑者は、好待遇を求めて転職を試みたが失敗していたことが報道されており、上司に待遇改善を直訴していたことも警察関係者の情報として判明している。彼の業務態度や直訴内容は不明だが、報道によれば彼の年収は200万円(+ボーナス20万円)程度とされている。
額面220万円としても、手取りは額面の72%程度だから150万円程度だったろう。ワーキングプアそのものと言える。
その彼はアニメとバイク改造が趣味だったらしい。
報道映像を見てのコメントなので恐縮だが、賃貸かどうか不明だが一戸建てに住み、車とバイクを保有しているようだに見えた。その上結婚をしており、金のかかる趣味を持っているという事なので、収入の割りには随分と生活レベルが高く見える。そうなると可処分所得が限界点を越え、金銭的な不満が高まっていただろう事は容易に想像つく。またコスプレをして市内を歩くという行動様式には、自己顕示欲の強さが垣間見られる。内気な人物だと評されているようだが、内面的には自己愛が強くプライドが高かっただろうと想像される。

49
歳の彼のキャリア形成過程は、報道には無いので正確に分からないが、地方都市の製造工場で契約社員として6年ほど働いているという事からすれば、30代までに、考えて居たようなキャリア形成が出来ず行き詰っただろう事は何となくだが伺い知れる。
私も30歳代の頃、契約社員待遇等で仕事をした経験がある。その後40歳代になり、本当に運良く大手上場企業の正社員になってから、当時の自分の賃金待遇を冷静に見つめ直してみたことがある。
そして非正規労働者が、如何に賃金的・待遇的に圧倒的に不利である事を思い知らされた。
特に40歳を過ぎてから非正規労働者であると、同年代の企業動労者で非管理職レベルの待遇と比較しても2倍程度の賃金待遇の格差が生じる。管理職になっていれば更に大きくなるのは明らかだ。
また福利厚生費面の待遇の違いが大きく、その後の退職金まで考えると、目に見える賃金以上の待遇差が大きく開いてしまい、非常に不利なにだ。試算によれば38年間の比較で、正社員の社会保障費等は約4000万円近くになるようだが、非正規社員は0円だ。

実際非正規労働者は社会的には自営業者と全く同じ扱いだ。しかし企業に雇用された瞬間に正社員と同じような業務環境下に置かれ、同じような仕事を要求される。それにも関わらず正社員と比べ待遇面の差は余りにも大きい。

厚生労働省の「賃金事情等総合調査」に示されているが、社会人をずっと非正規で働くのと正社員で働くのでは2.53倍近い生涯年収差が生まれるとある。前述のように社会保障費や退職金、福利厚生費まで入れると実際の差はそれ以上だ。
2013
年の日本の正社員の平均賃金が480万円程度と言われている。非正規社員で290万円だ。
報道から推定すると阿部容疑者のそれは平均の半分程度だし非正規の平均以下でもある。手取りレベルでは150万円程度となり貧困層に近いとも言える。副業もやっていたようなので本当の年収は伺い知れないが、その中で100万円以上はかかるだろうと専門家が云う改造費をねん出していた訳なので、金銭面の不自由感は常態化していただろう。

人生は様々で、金だけでその価値を計る事は出来ない。年収が低くても十分に幸せを感じて生きている人も多いだろう。しかし物が豊かで情報も均質になっている現代で、物欲から長期間に渡って完全に逃避するのは常人にはなかなか容易な時代ではない。
又、医療の改善等で寿命が長くなった事で高齢者として生きる時間が長くなり、年金制度がそれを支えきれない時代に突入する現代において、20代、30代から4050年後先の生活をどう担保するかを考えなければならない時代に入っているとも言えるだろう。

長期的人生設計を考えると云う点において、霞が関の官僚たちが他の追随を許さない能力の持ち主であるなと感じるのは私だけではないだろうが、前述のように非正規労働者は生涯年収が正社員に比べ圧倒的に低いため、中高年になると生活維持がかなりきつくなり始める。
現代は非正規労働者が全労働者の40%近くに迫る時代だ。
その非正規労働者を抱える事によって得られる企業利益は、見えにくい形で社会の負荷となって循環する事を忘れていないだろうか?
労働者(経営者)と消費者は表裏一体なのだ。
非正規労働者が増大すると云う事は、低年収者の増大を許容することになる。それはすなわち潜在的な購買力を自らの手で縮小させる事になる。非正規労働者によって先取りされた企業の利益は、廻り回って社会全体に負荷をかけるのだ。
雇用の流動性の正当性を主張する人も多いし、その理屈の一部には聞くべき点があることは認める。
しかし仮に雇用の流動性が現代よりもさらに強くなる時代が来ると、40代以降の中年期を非正規労働者として迎え、キャリア的に特別な立ち位置を確保出来ないだろう多くの人材は、圧倒的に不利となるだろう。流動する雇用の中で、他を圧倒する能力で正社員並み以上の待遇を受けようとすれば、自ずと限られた人材になるのは誰でも分かる理屈だ。
またサラリーマンのような職種の人材が、流動性の中で形成出来るキャリアは、場合によっては一貫性を欠いた不連続になる人が多くなる可能性が高い。つまり企業渡り鳥になるケースが増えると想像されるからだ。

雇用が流動性を持つと云う事は、それまでのサラリーマンのような能力人材が個人事業主のような立ち位置とならざるを得ない。自らの才覚で起業し成功させる者も多いだろうが、こうした人たちはやはり少数派だといえよう。
労働人材の大多数は独立的な能力を持っている訳ではなく、集団的組織の中での能力発揮によってその才能を開花する場合が殆どだ。日本全国に孫正義氏のような人材がゴロゴロ転がって居る訳ではないのだ。
私は社民党支持者でも自民党支持者でもないが、個人的に非正規雇用の増大を招き、社会に受け皿が整備されない状態や本来の非正規労働に規定すべき意外の雇用流動化推進政策に反対の立場だ。
流動化を是認させるためには相当慎重な社会整備が必要だと思っている。個人事業者である非正規労働者と企業を比較すれば、労働者の能力的価値が相当高くなければ企業と渡りあえないだろう。
今回の阿部容疑者の事件の中には、非正規雇用者の悲鳴のような部分が聞こえてくる。ただし、阿部容疑者の行為を正当化するつもりは全くない。彼の本当の犯行動機や事情はともかく、結果的に彼の利己的な行為によって多くの消費者に被害が出ており、関連企業に迷惑がかかり、工場は閉鎖状態となり、そこで働く多くの人たちの雇用にまでダメージを与えるような現実には全く賛同出来ない。
非正規雇用の環境が生んだ事件なのか、個人的な資質の問題なのかは今の段階で不明だ。また、彼が正社員だったら全く同じような事件が起こらなかったか?と問われればその可能性を否定する事は出来ない。

今後、将来の生活が担保されにくい雇用環境の時代が明確に進めば、結婚、出産、家持ちなど、長期的展望に立った人生設計を出来る職業は、公務員や社会インフラ系を担う企業以外には無くなってしまう時代が来るかもしれない。もちろん大手企業にしても40年、50年という風雪に耐え、雇用を維持できる保証は全くないが、それでも企業の長期的な雇用の受け皿は、経済成長のけん引に寄与しているだろう。
若い頃には気が付き難い問題だが、40代を過ぎると殆どの人々の人生は固定化される。生活レベル、住居環境、仕事内容など余程の例外的事象がない限り、過去の蓄積以上にキャリアが進む事はない。

また、高齢化した社会において、リタイア後、平均で20年を超える老後を生き抜くためにはまとまった金銭を必要とする。生涯年収が1億円程度の非正規社員が高齢化すれば、生活保護の予備軍になるのは避けられず、結果的に生活保護等の社会保障費の増大原因となる。企業が生んだ目先利益は廻り回って国民の負荷となりかねない。
アクリフーズは人件費管理を成果の出難い生産現場に成果型の賃金制度を導入してしまった。それだけが事件の原因か不明だが、結果的に待遇への不満の捌け口が商品に瑕疵を生み、会社に大きな損害をもたらしたとも言えるだろう。また2014年1月29日労働者派遣制度を見直し、現行最長3年としている企業の派遣受け入れ期間の上限を撤廃する労働者派遣法改正案の提出が決定した。上記のような理由で、個人的にはこの法案成立には反対している。国際化による企業の競争力を付けるために、人件費を落とされた日本の労働者が経済先進国内で生活するのは相当な苦難を伴うだろう。
そういったマクロ視点を含め、雇用の流動化について論じて欲しいものだ。

【参照】
年収差は40代で、2倍以上になる -正社員vs非正規「一生に貰えるお金」全比較:

http://president.jp/articles/-/9742


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通りすがり

◯ワーキングプア
×ワーキングポア

「ワーキングポア」とは、オウム真理教が殺人を正当化するために使われていた「ポアする」という言葉と「ワーキングプア」を掛けあわせて作られた造語で、従業員を低所得かつ劣悪な労働環境、明らかに労働基準法に抵触するような過酷な残業をさせるなどして、その従業員を過労死や自殺に追い込むことを意味する言葉です。
by 通りすがり (2014-10-18 16:13) 

コロン

貴重なご意見ありがとうございました。その通りでした。修正させて頂きました。
by コロン (2014-10-27 17:22) 

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